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大阪地方裁判所 平成3年(わ)2353号 判決 1992年11月10日

本籍

三重県伊勢市村松町三八六七番地の二

住居

大阪府寝屋川市高柳栄町四番二号

不動産売買、仲介及び建設業

中村米男

昭和一七年一月二八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立石英生出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年六月及び罰金八五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪府寝屋川市高柳栄町四番二号において、大丸住宅の商号で不動産売買、仲介及び建設業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、

第一  昭和六二年分の総所得金額が一億六六四二万八七四〇円であった(別紙総所得金額計算書(一)及び修正貸借対照表(一)参照)のにかかわらず、架空名義の定期預金等を設定し、実際の所得金額には関係なく、適当かつ過少な所得金額を記載して所得税確定申告書を作成するなどの方法により、所得の一部を秘匿したうえ、昭和六三年三月一五日、大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号所在の所轄枚方税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が九五〇万七二四二円で、これに対する所得税額が一八七万八八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法廷納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額九二〇九万六〇〇〇円と右申告税額との差額九〇二一万七二〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れ、

第二  昭和六三年分の総所得金額が一億七九二三万八七〇七円であった(別紙総所得金額計算書(二)及び修正貸借対照表(二)参照)のにかかわらず、前同様の方法により、所得の一部を秘匿したうえ、平成元年三月一三日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が一二二八万八七五〇円で、これに対する所得税額が二六九万〇八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額九七七七万二九〇〇円と右申告税額との差額九五〇八万二一〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れ、

第三  平成元年分の総所得金額が三億六九三七万二二〇九円であった(別紙総所得金額計算書(三)及び修正貸借対照表(三)参照)のにかかわらず、前同様の方法により、所得の一部を秘匿したうえ、平成二年三月一四日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が一四四九万八二七二円で、これに対する所得税額が三五六万二〇〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億八〇三二万七〇〇〇円と右申告税額との差額一億七六七六万五〇〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。

(証拠の標目)

注・証拠末尾の括弧書内の漢数字は、検察官請求番号を示している。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の

(1)  検察官に対する供述調書四通(一一八ないし一二一)

(2)  大蔵事務官に対する質問てん末書二〇通(平成二年五月三一日付のものを除く)(九七、九九ないし一一七)

一  広川こと孫淳柄の

(1)  検察官に対する供述調書(八五)

(2)  大蔵事務官に対する質問てん末書二通(八三、八四)

一  波多野廣江の

(1)  検察官に対する供述調書(九三)

(2)  大蔵事務官に対する質問てん末書六通(八七ないし九二)

一  中川久子の大蔵事務官に対する質問てん末書(八六)

一  石原紀一の大蔵事務官に対する平成二年七月二三日付及び同年一二月三日付各質問てん末書三通(九五、九六)

一  検察事務官作成の捜査報告書(八)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書五九通(記録第二二-一号、同第二二-二号、同第二二-三号、同第二二-四号、同第二二-五号、同第二二-六号、同第二二-七号、同第二二-八号、同第二二-九号、同第二二-一〇号、同第二二-一五号、同第二二-一六号、同第二二-一九号、同第二二-二〇号、同第二二-二一号、同第二二-二二号、同第二二-二三号、同第二二-二四号、同第二二-二六号、同第二二-三〇号、同第二二-三一号、同第二二-三二号、同第二二-三三号、同第二二-三四号、同第二二-三五号、同第二二-三六号、同第二二-三七号、同第二二-三八号、同第二二-三九号、同第二二-四〇号、同第二二-四一号、同第二二-四二号、同第二二-四三号、同第二二-四四号、同第二二-四五号、同第二二-四六号、同第二二-四九号、同第二二-五〇号、同第二二-五一号、同第二二-五二号、同第二二-五三号、同第二二-五四号、同第二二-五五号、同第二二-五六号、同第二二-五八号、同第二二-一〇〇号、同第二二-六二号、同第二二-六三号、同第二二-六四号、同第二二-六六号、同第二二-六五号、同第二二-六七号、同第二二-六八号、同第二二-七一号、

同第二二-七〇号、同第二二-八一号、同第二二-六九号、同第二二-七二号、同第二二-六〇号(一〇ないし一九、二四、二五、二八ないし三三、三五、三九ないし四三、四五ないし五六、五九ないし六六、六八ないし八二)

一  大蔵事務官作成の証明書(青色申告書提出の承認取消についてのもの)(九)判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二二-一二号)(二一)

一  大蔵事務官作成の証明書(昭和六三年三月一五日に申告した所得税申告書写についてのもの)(五)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二二-一一号)(二〇)

一  大蔵事務官作成の証明書(昭和六二年三月一六日に申告した所得税申告書写についてのもの)(四)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(一)

判示第二及び第三の各事実について

一  被告人の大蔵事務官に対する平成二年五月三一日付質問てん末書(九八)

一  大蔵事務官作成の査察官調査書二通(記録第二二-一三号、同第二二-一八号)(二二、二七)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成元年三月一三日に申告した所得税申告書写についてのもの)(六)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までのもの)(二)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の査察官調査書一〇通(記録第二二-一四号、同第二二-一七号、同第二二-二五号、同第二二-二七号、同第二二-二八号、同第二二-二九号、同第二二-九五号、同第二二-四七号、同第二二-四八号、同第二二-五七号)(二三、二六、三四、三六ないし三八、四四、五七、五八、六七)

一  大蔵事務官作成の証明書(平成二年三月一四日に申告した所得税申告書写についてのもの)(七)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(期間が昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までのもの)(三)

(争点に対する判断)

一  弁護人の主張

検察官の冒頭陳述中の内訳明細書番号7の棚卸商品のうち、<5>の情報提供料計上もれとして挙げられている昭和六二年分の四〇〇万円、昭和六三年分の三〇〇万円、平成元年分の七〇〇万円、さらに、<10>の仕入圧縮分として挙げられている平成元年分の三一〇〇万円はいずれも過大計上である。

二  当裁判所の判断

1  情報提供料

情報提供料について、被告人は、公判供述中で、弁護人の質問に対し、後にいい物件を紹介してもらいたいといった期待料の意味がほとんどだと思う旨供述するが、他方で、同じ公判供述中で、昭和六二、三年の不動産高騰期から出てたきもので、物件を紹介してもらって成約に至り決済ができた時点で支払うものである旨なども供述しており、右供述によっても、情報提供料が手数料ないし礼金であり、商品である不動産の購入のために要した費用として取得価額に算入されるべきものと認めるに十分である。

そして、被告人は、大蔵事務官に対する平成二年八月二四日付及び同年九月一四日付質問てん末書(検察官請求番号一〇三、一〇七)並びに検察官に対する平成三年七月一〇日付供述調書(同一二〇)中で、同業者の従業員等で信頼関係もなくなり、今後の事業に影響するなどの理由を述べて、支払先を明らかにしないものの、個別の物件を挙げて、検察官主張に沿う情報提供料の額を間違いなく支払った旨明確に供述しているものであり、右供述は十分な信憑性があり、これに基づく情報提供料の棚卸商品の取得価額への計上も正当なものである。

2  仕入圧縮

被告人は、大蔵事務官に対する平成二年九月一四日付質問てん末書(検察官請求番号一〇七)及び検察官に対する平成三年七月一〇日付供述調書(同一二〇)中で、相手先に迷惑がかかるなどの理由を述べて、取引相手については一切述べていないものの、証拠物の売買契約控帳を確認したうえ、いずれも平成元年の棚卸商品の不動産で、平成元年春頃の取引で六〇〇万円、年末の取引で一〇〇〇万円、他に年末に二回ぐらいに分けて支払った取引で一五〇〇万円の仕入圧縮があった旨述しており、右供述は、そのほかに昭和六二年の春頃の決済分で五〇〇万円の仕入圧縮があったように思うが、これについてははっきり分からないなどとも供述する中でのもので、十分な信憑性があり(なお、被告人は、公判供述中で、査察官に対しては、税金が少なくなると思って言った旨供述するが、これを前提にすれば、なおさらその信憑性は高いといえる)、検察官主張の右仕入圧縮の棚卸商品の金額への計上もまた正当なものというべきである。

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金刑とを併料し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期の範囲内で被告人を懲役二年六月及び罰金八五〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

(量刑の理由)

本件は、土地建物売買、建売住宅販売等を業としていた被告人において、三年度にわたり、合計三億六二〇六万円余りの所得税を脱税した事案であり、ほ脱額としても高額であるうえ、そのほ脱率も約九七・八パーセントと極めて高率である。そして、同業者が過少申告していると聞き、事業資金を留保しようと、帳簿等を無視して、適当かつ過少な所得額を申告していたという動機、態様面のいずれにおいても、被告人の納税意識の著しい欠如を示す犯行であり、これらの点からすれば、今回、被告人に対し、懲役刑についても実刑をもってのぞむことも十分に考えられる。

しかし、他方、被告人において、本件ほ脱に関し、既に本税の全額を納付し、重加算税及び延滞税の未納分についても早期の納付を約束していること、また、本件犯行の摘発後は、前記の棚卸商品の計上の一部を争い、あるいは、情報提供料支払先等取引相手を秘匿して反面調査を不可能にさせているなどの点はあるものの、自己の非を認めて、反省も認められること、現在は税理士に依頼して、適正な申告に努めていることなど、被告人のためにしん酌すべき事情もあるので、これら有利不利一切の事情を総合考慮して、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処したうえ、懲役刑についてはその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田隆)

総所得金額計算書(一)

<省略>

修正貸借対照表(一)

<省略>

<省略>

総所得金額計算書(二)

<省略>

修正貸借対照表(二)

<省略>

<省略>

総所得金額計算書(三)

<省略>

修正貸借対照表(三)

<省略>

<省略>

税額計算書

<省略>

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